春雷

夕方、帰宅すると、
夫はもう帰宅していた。

玄関で靴を確認して、心臓が縮む思いだった。
昨夜、話をした後から全く顔を合わせていない。


リビングに入ると、
ソファーに夫の背中を見つけた。

私が帰宅したのはわかっているはずなのに、
こちらを見ようともしない。

テーブルには、
朝、作り置きした朝食が手を全くつけられずに、並んでいた。

レタスのサラダは、すっかりしなびており、
ふいに、悲しい気持ちが込み上げた。

当然の報いだ。

逃げ出したい気持ちを抑え、
椅子にカバンを置いて、
朝食の残りをゴミ箱に片付けた。

夫をこっそりと観察すると、
ソファーの前の机に、
缶ビールが三缶潰れて転がっていた。

テレビは、アイドルの歌番組。
夫が見るはずもない。
ただ、付けているだけなんだろう。


すでに異様な雰囲気を漂わせていた。

今日は地獄の晩餐になりそうだ。

長い夜の始まりを覚悟して
自分も酒でも飲んでしまいたかった。


< 91 / 110 >

この作品をシェア

pagetop