春雷
テレビに映っているアイドルが

ミニスカートで
恋の歌を歌っている。

今の私たちには空々しい。

「‥俺を追いていくのか」

「パパ、酔ってるの‥?」

声が震えてしまう。
目の前にいるのは確かに知ってる顔なのに、
どうしてしまったのか、
夫の一挙一動が怖い。

後さずりすると、ゴミ箱にぶつかってしまった。

ごとり、とゴミ箱が転げ落ち、

からんからんと
いくつかビール缶が転がった。

夫はいつから飲んでいる?

急に
背筋に寒気が走った。


「あのさ、
俺、ほんというと、ママは、どうでもいいんだよね‥」


夫は
ゆらりと立ち上がって
私を淀んだ目で見つめた。



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