春雷
「‥知ってる。気づいてたよ。パパ。あなた、由乃ちゃんのママが欲しかっただけでしょう‥」

私は
夫の酔った目を睨み続けた。

この気持ちを怒りに変えないと、恐怖で体が崩れ落ちそうだった。

厄介な人。
みたくないものは目も、耳さえも防いで、
勝手に心を閉ざすくせに、

自分の手の中にある者は自分の手足のように考えているから、逆らう意思はふみつぶそうとする。

そんな人に
私も由乃ちゃんも、付き合っていた。

この人の手足でなんていたくない。

私も由乃も今、そう思っているし、徐々に準備をしていた。

だけど、

「そうだよ。ママが欲しかった。ほんとは愛してなんかいない。
だから、いいよ。ママが違う男が好きでも。
すっごい腹立つけど。でもね、由乃はだめ。
由乃は絶対、渡さない」


はっきりと
今この人に「いらない」と言われて、
頭を殴られた気分になった。

その時、

リビングの入り口で物音がした。


「パパ‥なんて酷いこと言うの」

「由乃‥っ」

学校から帰宅した由乃ちゃんが
青ざめた顔で立っていた。
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