春雷

「由乃ちゃんからメール来ました‥。とても悲しいメールです」

由乃ちゃんは、
あれからすっかり塞ぎこんでしまい、
フランスに関する情報雑誌や、
教科書を一切開かなくなった。

「夫が、大反対してます‥」
その代わり、私の事はどうでも良いらしい、
というのは今は言い難かった。

「そうでしょうね。心良く賛成する親はまずいないでしょう。自分の元から離れてしまうんだから。でも僕は、あきらめません。責任は持つつもりです。しっかりと支えます」

「ふふ、まるで、由乃ちゃんをお嫁さんにするみたいな言い方ですね」

「ハハハ!僕は二人もお嫁さんもらうのか!
それは素敵ですね!」

ーーーお嫁さん‥⁇
バツイチ、子持ち、38歳の私がお嫁さん⁇

(やっぱりこの人、ヘンだわ‥)

「先生!や、やめて下さい!こんなとこで!」
「ハイ。申し訳ありません」

「高村先生、さすがにこの話をここで続けるのはまずいです」
声をひそめて、私は彼をにらんだ。
それでも憎たらしいくらい彼は飄々としている。
「そうですね。では、退勤後、待ち合わせしましょうか」

「‥わかりました」

「場所は、あとでメールしますから、来てくださいね。必ず‥」
数秒、二人だけにしかわからない視線を交わし
彼は席を立った。
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