常盤の娘
完全無欠とも言うべき人を、純花は既に過去に知っていた。死んだ純花の兄である。彼は何をするにも、必ず人に認められるほどの結果を残す人だった。そんな兄の唯一の失敗はその最期だ。兄は純花をかばって交通事故で死んだ。本当に馬鹿な最期である。罵ってやりたいくらいに。

人間には生きているだけで価値がある、そう何かで読んだ。が、その価値に違いがあることを純花はよく知っている。生きて尊ばれ期待される人間がいる。反対に何も期待されずただそこに生きるだけの人間がいる。兄は前者で、純花は後者の人間だった。「死んだのが妹さんだったら、両親も幾分か救われたでしょうにね」通夜の席、葬式の席。何度そんな言葉を聞いたか。誰も純花を守る人はいなかった。両親ですら、突然の兄の死に視野を狭められ、純花のことなど見えないようだった。葬式を終える頃には、純花の心は傷だらけだった。防衛機能が破損し、頭上から降ってくる言葉をそのまま受け入れてしまうほどに弱りきっていた。
< 46 / 62 >

この作品をシェア

pagetop