常盤の娘
純花の行動に、母は悲鳴を上げた。やめてくれ、と。自分の子をもう一度失うようで痛ましいから、と。が、純花は逆上した。
「やめてよ!お母さんだって、思ってるくせに!兄さん代わりに私が死ねばよかったのにって!」
温厚だった純花の激情に、母は少なからずショックを受け、黙り込んだ。そのままやりようもなく、結局、翌日には何事もなかったように振る舞った。純花も両親に倣ってそうした。

純花の生活には何ら変化はなかった。家族と軽い会話はするし、一緒に食事もとっていた。が、この件以降、三人の足下にはいつも冷たいものが漂っていた。家が居心地のよい場所ではなくなるにつれて、純花は自室にこもるようになった。兄の書物に埋もれながら、兄の亡霊にでも憑かれたかのように勉強した。そして、純花は、兄の通っていた私立高校に難なく合格した。以前の純花の偏差値から20も離れた高校だった。
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