常盤の娘
純花を彼女の家に送り届けてから、東条は自宅に戻った。パチ。電気をつければ、無造作に積み上げられた段ボール箱が姿を現す。最近契約したばかりの部屋だ。家具と呼べるものはベッドしかなかった。

東条はスマホをベッドに放って、シャワールームに直行する。下着だけ身につけて、ドライヤーを片手に部屋に戻ると、ベッドの上で携帯が震えていた。純花かと思い、ろくに服も着ないまま耳に当てれば、不覚。キンキンと鬱陶しい声が飛び込んできた。
〈今日一日どこにいたの?〉
「今日ですか。世間は休日だというのに、僕は仕事でしたよ。しがない会社員ですので、上司の命令には逆らえなくて。麗華さんはきっとご家族と楽しく過ごされたんでしょうね。羨ましいです」
〈いい加減にして〉
「何か?」
〈私、見たわ。仕事っていうのは嘘でしょ。あの女は誰なの?〉
「何のことだか」
〈今日一日あなたが隣を歩かせていた女は誰かって聞いているの〉
「ああ、」
〈誰なの〉
「まさか嫉妬してますか」
〈そんなわけッ〉
「ふふ、可愛らしい方だ。あの女性が≪常盤の娘≫ですよ。近づいたのもあなたのためだ」
〈……あなたのこと、信じるわよ〉
「もちろんです。僕が一番に愛しているのは麗華さんですから」
純花を裏切り続けている自覚はある。もうずっとだ。
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