42歳 主婦 旦那様に片思い中【佳作受賞】
半信半疑ながら、俺は定時を過ぎると咲笑に声を掛けた。

「原田さん、行きましょうか。」

咲笑は素直について来た。

俺は、駅の近くのダイニングバーに彼女を連れて行き、酒と食事をご馳走した。

咲笑は、前日に失恋したと言って、泣きながら辛い想いを俺にぶちまけた。

片思いの相手が違う男を思って泣くのを見てるのは、胸を締め付けられるように苦しかったが、それでも俺は、彼女が喋って楽になるなら…と、ひたすら聞き役に徹していた。

そして聴きながら思った。

もしかして今なら、こんな俺でも彼女の心の隙間に入っていける?

こんなやり方、卑怯なのは分かってる。

だけど、卑怯な手を使っても、俺は咲笑が欲しかった。

だから、親切な同僚を装って誘ってみた。

「原田さん、明日の土曜日は空いてますか?
ひとりでいるのは辛いでしょうから、
どこかへ出かけませんか?」

さすがに断られるだろうと思っていた。
彼女なら、俺じゃなくても声を掛ければ来てくれる男はいくらでもいる。
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