42歳 主婦 旦那様に片思い中【佳作受賞】
そうか。
咲笑は、毎回泣く程辛い思いをしても、まだ子供が欲しいんだ。

だったら、咲笑が納得するまで、やらせてやろう。

俺は、もう何も言わなかった。

人工授精から体外受精になり、顕微受精になって、掛かる費用は馬鹿高くなったけど、お金なんて俺が働けば手に入る。

咲笑の幸せがお金で買えるなら、俺は何でもしよう。

そう思って治療を続けると、それから1年半程で、ようやく妊娠する事ができた。

妊娠しても流産の可能性もある。

無事生まれるまで、安心は出来ない。

俺は祈るような気持ちで咲笑を見守った。


妊娠が分かってから8ヶ月後、咲笑は無事長女を出産した。

出産に立ち会った俺は、嬉しくて思わず泣いてしまった。

娘が生まれた事が…じゃない。

正直、父親になる自覚はまだまだなかった。

咲笑が幸せになれた事が嬉しかったんだ。

これでもう、毎月俺に隠れて泣かなくて済む。

こんなに苦労をして授かった子が万が一にも流れたら、咲笑の心は壊れてしまうんじゃないかと思ってたから、俺は生まれるまで気が気じゃなかったんだ。
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