同期以上、彼氏未満
サラリと小声で言ってるけど、そのセリフは私の奥底で閉まっていた扉をこじ開けようとノックした。


「ごめん、夏休み中に、裕和が私の実家に挨拶することになったから」


「知ってるで」


「え、じゃあなんでそんなこと言うの?」


「そやなあ、まだあきらめてないからちゃうかな。


映画の卒業みたいに、式場からメグを連れ去ったろか?」


「そんな危険人物は、招待しないよ」


「招待されんでも、押しかけるわ」


「あのねー、私は、」


「エメラルド、おすすめやで」


昴はそう言い残すと、ノートパソコンを持ってフロアを出ていった。


どうして、そんなに強い気持ちを持ち続けられるの?


ずるいよ、昴は。


言いたいことだけ伝えて、かきまわして、逃げていく。


同じくらいの強い気持ちを、私が裕和に抱いていたなら、こんなに悩まなくてすむのに。


エメラルドグリーンを地色に選ぶと、思いのほかしっくりきた。


細かい色もすんなり決まった。


データをUSBにコピーし、ランチに出かけようとフロアを出たら、昴が正面に立っていた。


「その顔なら、デザインひとつは決まったんやな」


「ありがとうございました、浦野先輩のおかげです」


私はわざと、深々とお辞儀をした。


「なんや気色悪いわ、そんな挨拶するんやったら、昼メシおごれや」


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