同期以上、彼氏未満
音を聞きつけて、裕和が近寄ってきた。


「どうした?


あ、俺のグラス割っちゃったのかよ」


「ごめんなさい」


「それ、すげー高かったんだぞ」


「ごめん、すぐ片づけるから」


慌ててグラスの破片を拾ったら、指先を切ってしまった。


「痛っ!」


「なにやってんだよ、バカだな」


私を見下ろしながら、裕和は笑っていた。


裕和は、「大丈夫か?」とか、「俺が片づけるから」とか、私ならかけるであろう言葉を、言ってくれなかった。


ここ最近、悩むほどふくれあがっていた不満が、今の態度で一気に破裂してしまった。


「割った私がもちろん悪いんだけど、まずは『怪我してない?』とか聞くんじゃないの?」


「え、だって割ったのは恵だろ?」


「そうだけど、私だってわざと割ったわけじゃないし、割ったグラスは元に戻らないんだし」


「開き直るのかよ」


「私だったら、裕和が食器を割ったら、最初に『大丈夫?』って声かけるけど?」


「なんだよ、じゃあ俺が悪いわけ?」


「そうじゃないけど、値段のこととか最初に言う?


裕和は、車を運転してて自転車に乗った人とぶつかったら、『大丈夫ですか、怪我してませんか?』って言わずに、最初に車の傷がないか調べるタイプなんじゃないの?」


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