同期以上、彼氏未満
正論だけに、何も言えなかった。


「それより、須川さんと何かあったんやろ。


俺でよければ、聞くで」


ベッドで横に並んで座りながら、今までのことを話した。


昴は黙って全部聞いてくれた。


「俺はメグが好きやから、メグの味方やから言うんやなくて、客観的に見て須川さんが悪いと思うわ。


せやけど、車の話は余計やったな、怒らせるだけやで」


「そうだよね」


「メグはまだ、須川さんが好きなんやな」


「え、なんで?」


「好きやなかったら、そんな風に悪いとこ直してもらおうなんて思わへんやろ。


好きやから、一生懸命なんやろ」


「そう、なのかな。


でも、この前さ、私・・・」


昴を好きなことに、気づいちゃったんだよ。


言おうとして、踏みとどまった。


「この前、どしたん?」


「ごめん、なんでもない」


「須川さん、メグのスマホに電話して、部屋の中で着信音が鳴って、きっと心配しとるで。


ケーキ食べたら帰って、素直に謝りや」


昴は立ち上がり、コーヒーメーカーにフィルターをセットし始めた。


その背中越しに、昴の本音はみえなかった。


コーヒーのいい香りが部屋中に漂って、その香りを胸いっぱいに吸いこんだ。


吸いこんだ勢いで、昴の背中を抱きしめたかった。


この部屋にはふたりしかいないのに、誰も見てないのに、抱きしめる勇気は出なかった。


「好き」の二文字が、口に出せば一秒くらいの言葉が、言えなかった。


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