月夜に還す
再会
 
 猛暑だ、熱中症だと連日ニュースで伝えられた、暑い暑い夏がやっと終わろうとしている九月最初の金曜日。
 今度は次から次へと湧いて出る台風に、やっぱり天気予報のチェックが欠かせない毎日。

 熱気と喧噪に包まれた店を出ると、思ったより強い風が、肩下まで伸びた幸香の髪を巻き上げた。
 両手に抱えている花束から、花びらが数枚空に舞い上がっていく。

 「だいぶ風が強いな。」

 振り向くと、さっきまで後輩の女の子と話していると思っていた課長が、すぐ後ろにいた。
 
 「台風のせいですかね、まだ随分遠くのはずですけど。」

 「この前の台風の時は電車が止まって大変だったから、今回は勘弁してほしいよな。」

 「ですね。」

 「加藤はJRだったよな?」

 「はい。」

 「俺もJRだから加藤が良ければ駅まで一緒に行こうか。」

 「私はいいですけど、二次会はいいんですか?」

 「ああ、明日は朝から店舗回りだからな、今日は申し訳ないが引き揚げさせてもらうよ。実はその口実に加藤を使った。」

 「私を?」

 「ああ、駅まで送って行くとみんなには言ったから。」

 「なるほど。私なら“安全”ですもんね。」

 「…最後の最後に悪いな。」

 「いえ、構いませんよ。」
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