月夜に還す
「私が中途半端な時に退職するせいで、課長の歓迎会と被ってしまってすみません。」
幸香は当初、八月いっぱいで出勤を終わらせるつもりだったのだけれど、それを申請した時に、前職の山野課長が「異動してくる新しい課長の為に、もう出勤を少し引き伸ばしてくれないか。」と言われた為そうしたのだけれど、今となってはそれが良かったのか、悪かったのか分からなくなった。
幸香の仕事自体は、八月末までに二つ下の後輩に引継ぎが完了していて、この一週間はその後輩のフォローと、赴任してきたばかりの高柳の補佐に当たっていた。
「引継の時に山野さんから聞いたよ、本当は八月末で終わりの予定だったのに、俺が来るから引き伸ばしてくれたって。気を遣わせて済まないな。」
「五日ほど伸びただけなので、特に問題はありませんよ。」
「そうか…。」
そう口にした高柳は、それっきり少しの間口を噤んでしまい、幸香も彼に合わせるように黙ったまま二人で駅までの大通りを進んだ。
「加藤が大丈夫なら、ちょっと酔い覚ましに付き合ってくれないか?飲み物くらい奢るから。」
駅まであと五分くらいのところで、高柳が言った。
彼の手は大通りから一筋中に入ったところにある公園を指している。
「いいですよ。」
時刻はまだ九時過ぎ。明日は休みだし、缶コーヒー一本分くらい寄り道なら問題はないだろう。
幸香は当初、八月いっぱいで出勤を終わらせるつもりだったのだけれど、それを申請した時に、前職の山野課長が「異動してくる新しい課長の為に、もう出勤を少し引き伸ばしてくれないか。」と言われた為そうしたのだけれど、今となってはそれが良かったのか、悪かったのか分からなくなった。
幸香の仕事自体は、八月末までに二つ下の後輩に引継ぎが完了していて、この一週間はその後輩のフォローと、赴任してきたばかりの高柳の補佐に当たっていた。
「引継の時に山野さんから聞いたよ、本当は八月末で終わりの予定だったのに、俺が来るから引き伸ばしてくれたって。気を遣わせて済まないな。」
「五日ほど伸びただけなので、特に問題はありませんよ。」
「そうか…。」
そう口にした高柳は、それっきり少しの間口を噤んでしまい、幸香も彼に合わせるように黙ったまま二人で駅までの大通りを進んだ。
「加藤が大丈夫なら、ちょっと酔い覚ましに付き合ってくれないか?飲み物くらい奢るから。」
駅まであと五分くらいのところで、高柳が言った。
彼の手は大通りから一筋中に入ったところにある公園を指している。
「いいですよ。」
時刻はまだ九時過ぎ。明日は休みだし、缶コーヒー一本分くらい寄り道なら問題はないだろう。