自分の成したコト

「先生！先生！」



ドアが勢いよくガラリと開くと、息を切らした壮年の男が飛び込んできた。



ニイジマか…



「シムラ先生！聞こえていらっしゃいますか！」



なんだ？今にも泣きそうじゃないか。



「先生！法案が可決されました！これで！階級制度は撤廃になります！先生！」




ああ…やっと…

私が死ぬ前に間に合ったか…

本当に長かった…





『良い人生だったか？』
あの日の先生がまた俺に問う。





答えはイエスです、先生。





これで…やっと…




私は残りの力を振り絞り、震える手でサイドテーブルを指差した。



「ニイ…ジマ、その中にある、手帳から…あれを…」



以前から何度も、私が死ぬ前にそれを見るのが夢だと言っていたのを思い出したニイジマは、手帳を取り出しそれを開く。

初めのページに挟まれた、赤い染みのついた古びた紙片を手に取った。

それを受け取り、震える手で開いていく。




私は未来を見てほしかったのに、先生は何で私の前世を見たのか。ずっと疑問だった。

何度見てしまおうと思ったことか…

そんな自分と戦い、ここまで来た。




「………」





ああ、そうだったのか…





それを見て、納得したような、泣きたくなるような、喪失感や、不思議な安堵感みたいなものがない交ぜになって込み上げてきた。


「ニイジマ…これを、誰にも見られずに…処分してくれ…」


これまで、自分に負けて見ずにすんでよかった…






先生、私はずっと自分と戦っていたんですね。






そして、先生の最後の言葉を思い出す。


『シムラよ、お前が下民に生まれたのはお前のせいではない…罰…では、ない…』