先輩の彼女にしてもらいました
「俺は、女なんてめんどくせーもんは当分いらないの。バスケが恋人なんだよ」

「似合わねー。つばさが禁欲生活なんてできるわけないじゃん」

言いながら、岳は額に手をあてて、コートの外を見渡しながら、ちょっとにやけている。

いつもは、怖い顔の岳も1年女子ファンが増えて嬉しいのかもしれない。

バスケ部一の硬派の岳もやはりただのスケベな男か。

「お、いるいる。あの子よく見かけるよな。教室や食堂とかにもお前のことをこっそり見に来てる子じゃね?俺もあんな子に追いかけられたいな」

「うっせーよ、岳」

「えー、どうしたのかな?つばさ君は。今回は随分、慎重なんだな」

岳にからかわれ、なんだかイライラしてきた。

「まあ、つばさは、チームの要(かなめ)だし、3年からはそのくらい自制してくれる方がいいけどな」

「はいはい、耳にタコ」

「何度も言って悪いけど、今度は俺たち3年がチームを引っ張っていくんだからな。これまでのようにお前だってプレーにだけ専念したらいいってわけじゃない」

「わっーてるって。俺たちの最後の年、俺たちの代の念願のチームだろ」

ほんとに、毎日毎日こいつの説教を聞かされて、士気は天井知らずにあがってるんだよ、俺だって。

「やってやろーじゃん、俺らの代で今年こそ優勝狙いに行くぞ」

岳に向かって握った拳をつきつけると、奴も拳をあわせてくる。

ニッと笑い合う。

そんな俺たち2人の横を桜が、クスッと微笑みながらわざとらしく通りすぎる。

まるで、小さい子供の成長を喜ぶ母のような優しい笑顔だ。

岳は、その後ろ姿を目で追う。もはや無意識なんだろうか、こいつは。

その2人を俺は、やれやれと思いながら見守る。

「お前さ、そろそろ行けば?いつまで待たせてるわけ?」

「なにが?」

「言ったろ、今別れてる時期だって」

俺は挑発するように、岳の顔めがけて強めにボールを投げた。

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