先輩の彼女にしてもらいました
「これ以上くっついてたら、俺、蒼井さんを襲うかもしれない。ほら見て、今夜は満月だし」

上ずった声の先輩は空を指差す。

そこには、少しぼんやりした満月が鈍く光っている。

え、先輩どうしたんだろう?

「じゃ、じゃあこれで。蒼井さんも気をつけて帰りなよ、おやすみっ」

最後はそれだけ言って先輩はこちらを振り返らずに走り出した。

「せんぱーい、おやすみなさい」

満月だから、なんなんだろう?

まさかね、オオカミ男じゃあるまいし。

やっぱり先輩の思考ってよくわからないなぁ。

だけど、焦ったような先輩の顔も可愛いかったなぁ。

満月をぼんやり見上げながら、先輩に抱き寄せられた余韻に浸って幸せな気持ちに包まれていく。

さっき、アキちゃんとの電話で、最悪な気分になってしまったことなんてもうすっかり忘れていた。

今の私の頭の中は彼のことで一杯で、アキちゃんの訳の分からない私への暗い執着に、気づきもしなかった。

だけど、私がこんな風に彼女から逃げ続けたばかりに、取り返しのつかない事態を招いてしまうことになるなんてこの時は想像もしていなかった。
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