はつ恋の君をさがしてる
結局その日の朝の課長からの周知では、具体的な過払い案件の話は無くて、当事者達の処分についても言及されなかった。
私はその事にほっとして1日何事もなく仕事をすることに没頭することができた。

お陰で定時で帰宅できたので、スーパーでゆっくり買い物を済ませてマンションに帰った。
高嶺さんからは帰りが8時過ぎると言うメッセージをもらっていたので、今朝のやりとりもあったし気まずかっただけに助かった気分で、黙々と料理することにした。

今夜はさばの味噌煮となすと油あげの味噌汁。
小松菜の白和えも作った。

「よし。そろそろ帰ってくるかな?」
シンプルすぎるリビングには異質なほどラブリーなネコのイラストが文字盤になっている掛け時計を見上げる。
時間は2匹の黒猫のしっぽが絡まって8になっている部分を少し過ぎたところだ。

「何度見ても可愛いなぁ~あの時計は絶対に高嶺さんの趣味じゃないよね?誰かからの贈り物かなぁ?う~ん気になる!今度聞いてみよう!」
「何が気になるって?」

不意に背中から腕が回ってきて耳もとで囁かれてびっくりして硬直した。
「ちょ……ちょっと!何してるんですか!?」
あわてて離れようと身を捩るが逆に強く抱き締められて焦る……
「お前が隙だらけでぼ~っとしてんのが悪いんだよ!あぁ~腹へった!」
高嶺さんはそう言うと何でもなかったみたいに腕を解いて離れていく。
急に寒くなったような気がして……
それがなんだかさみしくて手を伸ばそうとしてハッとした……なにしてるんだろう?
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