はつ恋の君をさがしてる
「たぶん?って……なんで疑問系?おまけにまだ何もしてないのに真っ青だよおたく!」
浅田さんは散々私を笑った後にさらに意地悪な事を言う。

「そんな事言われても、好きできたわけじゃないし……」

思わず泣きそうな声で弁解する。

「あ……ごめん。上司に無理やり行けって言われたりしたの?ダメなら無理しなくていいから」

そう言われて、やめてしまおうかと一瞬思ったけれど、それは逃げるみたいで嫌だった。

「大丈夫です。お願いします。」
きっぱりとそう言ったら、浅田さんは短く了解と言ってまた針を持った。

私はできるだけ見ないように横を向いて目を閉じる。
過呼吸を起こさないように必死に頭の中で大丈夫!これは仕事!を繰り返した。

浅田さんは何も言わずに私の腕の血管を確認するように触ると、すぐに消毒する。
「動かないでね、すぐ終わるから。」
その言葉にぎゅっと瞼に力を入れた。

「いっ…っ…」

痛くてつい声が出てしまった。

「おっけ~もう楽にして。終わるまでしばらく時間がかかるから寝ててもいいよ?よく頑張ったね~なんか久しぶりに小児科の実習思い出したわ~」
あっけらかんとそう言うと浅田さんにつられて私もちょっと笑ってしまった。
私が最後の協力者だったこともあって、周りにいた看護師さんたちまで集まってきて、採血の間におしゃべりした。
浅田さんに嫌な上司なら次回のときにわざと痛くしてやるから来させろ!なんて言われたから、私はちょっと腹が立っていたこともあって、違うんです!と、つい3人組に嵌められた話をしてしまった。
浅田さんも他の看護師さんたちも意地悪や嫌がらせに献血を使うなんて!とかなり怒ってくれて、ちょっとスッキリした。

針を抜くときはまた緊張したけれど、なんとか無事に献血を終えて、看護師のみなさんからご協力ありがとうございました!と言われて、やっとホッと息をついた。
私の血液が誰かの役に立てるなら良かったとそう思えた。
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