はつ恋の君をさがしてる
副社長はそのあと高嶺さんに会いたいとナースステーションに話をしに行ってしまった。
私は病室から出るわけにもいかず、仕方なく布団に潜り込んだのだが、数分で病室に戻ってきた副社長が、夕方また来るからその時に話をすると言って帰ったので、それまで眠ることにした。

眠れないと思っていたのに意外とすんなり睡魔がやってきて、次に目が覚めたときには窓の外が茜色になっていた。

「ちょっと寝すぎ?仕事も休みすぎだよね……どうしよう。きっと仕事溜まってる。」
芽衣子の困った顔を思い浮かべてげんなりとする。
そこにノックの音が響いた。

「どうぞ。」
そう返事を返すと引き戸が開き、入ってきたのは予想通り副社長と男性秘書。
その後ろには高成さんまで立っていた。

「鈴加さん?体調はどうかな?」

控え目に高成さんからそう問われて、つい先程まで眠っていた事と気分も体調も悪くないことを話した。

「それなら良かった。高嶺にめちゃくちゃ怒られたし責任を感じていたからホッとしました。」

そう言うと本当にホッとした顔をされて、要らない心配をさせたと反省する。

そこにノックもなく引き戸を開けて入ってきたのは高嶺さんだ。

高嶺さんはむっとした顔で室内を見回すとスタスタと私のベッドまで歩いてきた。

「起きたか?気分は?吐き気や頭痛はない?」
お医者さまの顔と口調で問診を始める。
完全に後ろにいる高成さんや副社長たちは無視だ……。

「大丈夫です。吐き気も頭痛も無いし、寝たらスッキリしたかも?」

ちょっと重苦しい雰囲気を何とかしたくてわざと明るい声を出してみる。
高嶺さんはニヤリと私にだけ見えるように口の端をつり上げると熱を確認するみたいに私の顔に近づいて耳元でささやく。
「しばらく静かにしてろ、話は俺がする。」
私は高嶺さんの言葉に不安を感じたが素直に小さく頷いた。
< 166 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop