はつ恋の君をさがしてる
「澤田さんは普段から社内講習に熱心に参加されていますよね?実務に直接関わらない講習でも的確な質問までしてくると妻が感心していました。澤田さんにぜひ後任をお願いしたい。」
秘書さんの言葉に副社長が首肯く。
「私からも頼みたい。君に今辞めてほしくない。結婚後も仕事は続けてもらいたい。頼めないだろうか?新しい仕事は不安だと思うが、澤田さんだからこそお願いしたい。」
二人からそう言われて悩む。
隣に立つ高嶺さんを見上げたら、ふわりと微笑して見下ろされた。
これは自分で決めろ!って事かな?
不安はある。
でも、たぶん秘書さんの奥さまって社内講習会で毎回司会をしている方だよね?
いつも質問に手を挙げる私を当ててくれる人……私にできるかな?でも……

「わかりました。私……自信はありませんけど、少しでもお役にたてるならやらせてください!」
顔をあげて決意して返事をする。
「良かった。そう言ってもらえてホッとしました。妻も喜びます。」

副社長も秘書さんも体調が万全になるまでは無理に出社しないようにと何度も言いながら帰っていった。
高成さんは平原さんに叱られてくると肩を落として帰宅した。

「俺たちも帰るぞ?それともしばらく病室に泊まるか?」
おどけてそう言う高嶺さんに私は頬をぷくりと膨らませて抗議する!
「嫌です!絶対帰ります!」
「だよな?」
苦笑いの高嶺さんと病院からマンションまでの道を並んで歩いた。
高嶺さんが私の腰にまわした腕にすっかり慣れて恥ずかしいとは感じない。
逆にうれしい。
ひとりでないことが実感できて幸せかも?
なんだかふわふわする感情に戸惑いながらも高嶺さんとの距離感を楽しんだ。
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