はつ恋の君をさがしてる
「そうなんだ!すごいね鈴加!鈴加の頑張りが認められての異動なら、さみしいけど仕方ないね。人材育成かぁ~案外鈴加にぴったりなんじゃない?」
芽衣子の口調はいつもと同じちょっとおどけた感じだけど、その瞳にはうっすらと涙の膜がはっている。
泣くのを必死で我慢して私を笑顔で送り出そうとしてくれているんだ……。

「ありがとう芽衣子。須藤さんも長い間お世話になりました。私……頑張ります。」
泣いちゃいけない。
頑張ろう。

3人で事務室に入室すると、珍しく課長がすでに出社していた。
課長から改めて異動の辞令を受けとる。
朝礼で挨拶をしたらすぐに総務課に移動しなくてはいけないと聞いて、私は最後のご奉仕とばかりに事務室内のレンタルグリーンに水やりをしたり、みんなの机を雑巾がけしたりして、いつもと同じように朝礼前の時間を過ごした。
芽衣子も須藤さんも黙って手伝ってくれた。

そして、就業開始のチャイムの後に課長席の近くにずらっと集まる社員達の前で私の異動が発表されたのである。
すでに告知を目にしている為か驚きの声は上がらなかったものの、理由を問う声はあった。
課長は須藤さんが更衣室でした話とほぼ同じように説明してくれて、私が人材育成担当からの強い希望で引き抜かれるという理由をみんなが信じて応援してくれて、笑顔で退室することができた。
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