はつ恋の君をさがしてる
職場を飛び出した私はすぐに地下鉄に乗り込んだ。
待ち合わせには十分に時間があったが、一度帰宅して忘れ物を取りに戻らなくてはいけなかったからだ。

私の後見人になってくれた弁護士さんは渋いおじさまで、とても優しくてお父さんのような人。
亡くなった父は医者で忙しくてほとんど家には居なかった。
けれど母と私の事を愛してくれて、誕生日やクリスマスには無理をしてでも帰ってきてくれた。
そんな父が私は大好きだったけど、さみしいとも感じていたから、弁護士さんが父のように気遣ってくれるとついつい甘えてしまっていた。

「しまった!間に合うかなぁ~もぅ私のドジ!」

帰宅したことで待ち合わせに遅れそうになっていた私はかなり焦っていて、交差点の向かいにある約束のお店の前に弁護士の平原さんが立っているのを見てあわててしまって、交差点の信号が黄色の点滅から赤に変わったことに気がつかなかった。

だから何も考えずに交差点に飛び出してしまった。

その時!?

いきなり後ろから右腕を強く引かれて私はその場にドスン膝をつくように転がった。

その直後に私のすぐ前を無灯火の黒い車が横切って行った。

「おい!何やってるんだ!死にたいのか!」

その声は震え上がるくらいに怖かった。

私は驚きで痛みも忘れてその場に座り込んで動けなくなってしまった。

「鈴加ちゃん!大丈夫かい?」

交差点の反対側にいたはずの平原さんがあわてて走りよってきてくれたけど、放心状態の私は返事すらできなくて、ただ俯いていた。

「高嶺。お前がいてくれて助かったよ。」
「は?何?こいつ親父の知り合いなのか?」
「あぁ。大事なクライアントだよ。」
「ふ~ん。こんなドジなチビすけが?おい!いつまでそんなとこに座り込んでる気だ?」

かがみこんだ長身の男性に激しく肩を叩かれて、私はやっとハッと正気を取り戻して顔をあげた。

目の前には弁護士の平原さんが心配そうに立っていたし、その隣には平原さんに雰囲気の似た男性がイラついた顔で立っていた。

「すみません。ご迷惑おかけしました。」

私はとっさに消え入りそうな声で謝罪した。
けれど、それはどうやら間違いだったらしく、さらにイラついた男性に叱りつけられた。
「違うだろう!迷惑だなんて思ってない!何だって赤信号で飛び出したりしたんだ!もう少しで車にひかれて大ケガするとこだったんだぞ!ただでさえ忙しいのに俺の仕事を増やすような事をするな!」

「え?」

私は絶句した。
何でだろう?私が車にひかれてケガしたらこの人の仕事が増える?

と言うか、確かに確認もせずに交差点に
飛び出したのは私の落ち度だが、なんで見ず知らずの人にこんなに叱られなくちゃならないの?

私は徐々に理不尽な怒りがこみ上げてくるのを感じた。
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