はつ恋の君をさがしてる
俺が住んでいるのは病院から歩いて10分の距離にあるわりと大きいマンションだ。

ただ職場に近いと言う理由だけで購入したが、似たような理由で住んでいる奴が多くてまるで社員寮みたいな頻度で同じ職場のドクターと出会う。

今もまさに目の前には同じ神城総合病院で働く同僚ドクターが、ずぶ濡れの女の子を抱いて走ってマンションのエントランスに飛び込んだ俺を驚きの表情で見ていた。

「悪い相良!そこにいるならついでにエレベーターのボタン押してくれよ!」

俺がそう言うと、相良はポカーンと開けたままの口を閉じることもなくエレベーターのボタンに手を伸ばした。

相良は大学でも同級生で神城総合では俺と同じく中堅の部類に入るドクターで、専門は呼吸器内科だ。

俺が消化器外科か心臓外科かで悩んだ時に、相良はお前に繊細な心臓は向いてない!と真顔で言い放って俺を消化器外科に行かせた奴だが、その選択は間違ってなかったなぁと今では思う。

当時は結構凹んだんだが……。


エレベーターのドアが静かに開く。

俺は無言で乗り込んだ。

すると、相良も当然と言った顔で隣に立つ。

再びドアが閉まる。


……なぁ?
その子だれだ?

普段は至って温和な相良の声が、いつもよりもかなり低く響いた。

< 29 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop