たとえ世界が終っても、やっぱり君がいてほしくて。
タイトル未編集
「セイヤくん、早く早く~」
白く真っ直ぐに伸びた髪を、肩の上でゆらゆらと揺らし、足をばたばたさせたサリカは、歩みの遅いセイヤを見て言った。
「はいはい」とセイヤは、半分あきれて、でも半分はくすぐったい気持ちで、サリカの元へ小走りに近寄った。
サリカは頭上の白いレールを指さした。
細長い乗り物が、凄い速さで、悲鳴とともに滑っていった。
「絶叫マシーンは苦手じゃなかった?」
セイヤが問い掛けてみると、サリカはちょっと頬を膨らませて「昔はねっ」と、言う。
セイヤはそんなサリカが可愛くて、また微笑んでしまう。
今年、サリカから告白があって、セイヤとサリカは付き合う仲になった。
実は、高校生のとき、一回サリカから告白を受けていたのだが、断ってしまったのだ。
でも今年―――27歳になった春。サリカから改めて告白を貰い、付き合うことになった。
高校生のとき、なんで告白を断ったのか、今ではわからない。
他に好きな人でもいたのかと思ったけど、違うと思う。
好きになった相手なら、顔も名前も覚えてるはずだけど、全く何も覚えていない。 でも、特別な誰かがいた気がするのだ。
「ねえ、乗ろー」
はっとして、空へ向けていた視線をサリカに戻す。
サリカは、白い歯を見せて、ニッコリ笑っていた。
そうだ。
僕にはサリカがいる。
なんで昔のことを考えてしまったのだろう。
「そーだな」
笑い返しながら、頭が痒くなって、ポリポリと頭をかく。
セイヤは、サリカに手を引っ張られ、ジェットコースターに乗った。
「いつの間にかもう夕暮れだよ」
サリカは名残おしそうに言う。
「だね」
セイヤはオレンジ色の空を見上げて言う。
「最後にさ」
サリカは、セイヤの目を見ようと、セイヤを見上げて言う。
「観覧車乗ろう。一度でいいから、夕日を見ながら観覧車、乗りたかったんだ」
―――一度でいいから、流れ星が見たい!!
そのとき。
誰かの声とサリカの声が重なった。
誰の声だろう。
―――昔の、サリカの声かな?
「ねえ、セイヤくん」
サリカが、セイヤを見上げて不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「あ、ちょっと考え事」
「ん?」
「あ、あのさ」
セイヤはいつの間にか、話を切り出した。
「サリカは、流れ星、見たことある?」
「え?」
サリカはキョトンとした顔をしたが、直ぐにニコッと口端を上げ、「ううん」と首を振った。
「ないんだ。だからさ」
サリカは瞳を上へと向けた。
サリカの丸い瞳には、海のようなオレンジ色の空が映っていて、綺麗だった。
「セイヤくん、いつか見せて。流れ星」
視線を、真っ直ぐにセイヤへ向ける。
「・・・・・分かった。絶対見せる」
群青色とオレンジ色の空の下。
地球の影と日向の境目で、2人は小さな約束をした。
次の日の朝。
セイヤは午前4時に目を覚ました。
いつもなら再び夢を見ようと目をつむるのだけど、今日はなぜだか脳がさっぱりしていて、どうしても再び眠る事は出来なかった。
夏だからか、4時でも外は少し明るい。
このまま6時まで家でぼーっとしてるのもなんか間違えてるような気がして、僕は外に出てみようと思った。
パジャマから、動きやすいジャージに着替えて外に出る。
さっと冷たい朝の空気が体を包んだ。
ふと空を見上げれば、青いライトで照らしたような空が視界の端まであった。
そのとき、急に、僕の見ていない、視界の外側の世界はどうなってるのだろうという疑問が浮かんだ。
普通に地面とか、日常の景色があるのだと思う。今地面に立っているから、それが何よりの証拠。
でも、僕の見てないところで、もしかしたら未知なる世界が動いているかもしれない。
そんな想像をするのはちょっと楽しかった。
そこら辺を歩いてみる。
見渡しても、車も人も自転車も、ひとつとして通らない。
人の声とか生活の音が全く聞こえない。
ずっと遠い場所から、車や電車の動く音が、風と共に運ばれて来る。
まるで、自分しかいない世界に来たみたいだ。
数分歩くと、左側に階段が見えた。
階段は、丘の上にある公園までのびていた。
階段を上っていく。
長い階段を上りきって、公園に生えている雑草の上を歩いていく。
当たり前だけど、公園には誰もいない。
小さな公園を見渡してみる。
右から、左へ。
セイヤが、一番左端にあるブランコを目にした時だった。
「――――――――!」
ブランコの横。
そこから、まるで空間を切り裂くような不思議な線が、縦、横へと表れていく。
横に引っ張られた線と、縦に引っ張られた線が重なり合い、そこには縦長の長方形の形をしたものが出来た。
色はなくて、不思議な輪郭だけがある。
まるで、透明なドアみたいだ。
――――透明なドアは、世界の果て。
――――透明なドアは、境目、だったり、行けそうで行けない場所に現れるんだって。
まただ。
聞いたことあるようで、ないような声が聞こえる。
――――セイヤくん。
セイヤくん、なの?
「!」
さっき確かに聞こえた。
僕を呼ぶ声。
透明なドアの向こう側。
そこに、なにかがある気がする。
今まで追いかけてきた、全ての答が。
セイヤは、恐る恐るドアに近づいていった。
怖かった。
今まで見たことのない、未知なるもの。