雨夜の星に、願いひとつ
突然の誘いに、一瞬迷って返事に詰まってしまった。

その反応を見た柴ちゃんが「あ、夜に出歩くと親御さんが心配するかな」と真顔で付け足してくる。
10代の女子じゃあるまいし、そんなこと気にしてくれるなんて変な人だ。


「いえ、大丈夫です。親とは住んでないですし」

「じゃあぜひ行きましょう」


その誘い方がすごく自然だったから、わたしは思わず「はい」と承諾してしまった。

再び電話に戻る柴ちゃんを横目で見ながら、わたしは妙に落ち着かない気持ちで、両手の指をこすり合わせた。

……本当はさっき、返事に詰まった理由は賢二郎の存在だった。

いつも彼のために夕食を作って、彼が帰ってくるのを部屋で待つ、そんなルーティンがわたしの日常だったから。
賢二郎の知らない人たちと飲みに行くなんて、婚約してから初めてのことだ。


……あ。そういえば、親とは住んでないけど婚約者と住んでるって柴ちゃんに言いそびれたな。

まあ別に、わざわざ言う必要もないんだけど……。


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