雨夜の星に、願いひとつ
思わず固まってしまったのは、ふいうちで名前を呼ばれたから。

そしてその声と、臆面もなくじっとこちらを見つめる彼の目が優しかったから……。


わたしはとっさに視線をそらした。

いったい何をうろたえてるんだ、わたしは。たかが名前を呼ばれて、たかが視線を合わせただけで、何の意味もないのにバカじゃないの。


「な、名前負けだよ。わたしにゃ夢も希望もありゃしません」

「いきなり雑なやさぐれキャラっすね」

「おうよ」


わざとふざけた口調で言って、足早にお店のドアをくぐる。クーラーの冷気が頬に当たり、自分の顔が火照っていることに初めて気づいた。

……なぜ、こんなに耳たぶが熱いんだろう。

足元がふわふわしている。鼓動が速い。

自分の軸が揺れているような、だけど不快じゃなく心地いいような感覚。


ああ、そうか。今夜は少し飲みすぎたんだ。

これはすべてアルコールのせい。
一晩眠れば醒める、一時的なもの。


そう、思っていた。



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