雨夜の星に、願いひとつ
「相沢さんとサシで飲む男は気をつけないとね。逆に潰されちゃうから」
「潰したげよっか? 田中くん」
「怖いから遠慮しときますー」
「むかつくー」
そんなやり取りをしていたとき、ふと視線を感じてその方向に目を向けた。
スタッフルームの扉の前で、柴ちゃんが立ち止まったままこちらを見ていた。
――とっさに頭に浮かんだのは、今朝の夢。
唇の感触までリアルに思い出してしまい、わたしは裏返った声で「おはよう」とつぶやいた。
だけど、柴ちゃんからはあいさつが返ってこない。
あれ?と思った。どうしたんだろう、わたしの声が小さくて聞こえなかったのかな。
「柴ちゃん、おっす」
「おう」
田中くんがあいさつをしても、柴ちゃんはそっけない返事でカウンターへとすたすた歩いていく。人当たりのいい彼のこんな様子は初めてだ。
そのあと、わたしと柴ちゃんのふたりでカウンターを担当することになった。
普段ならお客さんがいないときは話しかけてくれるのに、今日はこちらを見ようともしない。