雨夜の星に、願いひとつ
別にわたしも熱烈なサッカーファンってわけじゃないけど。でもせっかくのワールドカップだし、感動を共有したいってわたしは思うんだけどな……。

賢二郎が部屋を出ていくと、程なくしてシャワーの音が聞こえてきた。わたしはその音をやけに遠く感じながら、ポツリとひとりごちた。


「まあ……今に始まったことじゃないけど」


そう、賢二郎とわたしは、興味のベクトルがことごとく合わないのだ。それは一緒に暮らす前からわかっていたこと。

スポーツだけじゃなく、映画とか、音楽とか、きれいな景色とか、心に響いたフレーズとか。

いろんなものに感動して語り合いたいタイプのわたしと、数少ない趣味にひとりで没頭するタイプの賢二郎。


すべてを共有できることが理想的だとは決して思わないけれど、隣にいながら別々のものを見ているような生活は、ひとりでいるより寂しいと、時々感じる。


試合終了のホイッスルの音がテレビから響いた。

奇跡的な勝利に日本選手たちが抱き合って歓喜し、サポーターの歓声は鳴りやまない。

なんとなくスマホでSNSを開くと、案の定そこもお祭り騒ぎ。日本の勝利を祝う投稿がズラリと並んで、中にはスポーツバーで大盛り上がりの写真を載せた友人もいる。


「いいなあ、楽しそ………」


ひとり言を言いかけた、ちょうどそのとき。

ピンポン、と軽快な音とともに一件のメッセージが届いた。
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