雨夜の星に、願いひとつ
なんとなく腑に落ちない表情の賢二郎が、わたしにビールを注いでくれる。とぷとぷ、と小さな音がグラスの内側で鳴った。


「もしかして、事後報告だから怒った?」

「え、いや、怒ってないよ」


顔の前で手をひらひら動かして否定する賢二郎。実際、彼が怒ったところをわたしはほとんど見たことがない。


「ただ、いきなりだからビックリしたんだ。バイトなんかする必要ないのにって」

「それはまあ、そうだけど……」


わたしは言いかけて、言葉の続きをビールといっしょに飲みこんだ。


2つ年上の賢二郎。
彼とわたしは一応、婚約者という関係だ。


おととし、賢二郎との結婚が決まったわたしは当時の勤め先を退社した。
好きな仕事をやめるのは寂しかったけど、遠距離恋愛の賢二郎と一緒になるためには仕方のない選択だった。

ほどなくして、彼が住むこの1LDKの部屋に引っ越してきたわたし。
本来ならすぐにふたりで新居を探して、籍を入れ、結婚式もあげる予定だった。
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