雨夜の星に、願いひとつ
「もう出かけるの?」
その日の朝、いつもより早く出勤の準備を整えた賢二郎にわたしは声をかけた。
「あ、うん。朝イチで会議があるから資料まとめとこうと思って」
「忙しいんだね」
ここのところ賢二郎は帰りも遅く、家でゆっくり会話をする時間もあまりない。それに対して寂しく思う反面、正直ホッとしている自分もいた。
いつものように玄関まで見送り、ほとんど義務のようなキス。
唇を合わせながら、わたしはそっと目を開けてみた。
自分とほぼ同じ高さにある、見慣れた賢二郎の顔。
……これがもし、彼だったなら――
目の前の婚約者より10センチほど高い位置を思い浮かべ、その想像のリアルさに胸が苦しくなる。
そんな心の内を悟られないよう、今日も笑顔で手を振り賢二郎を見送った。
* * * *
朝から降り続いていた雨が急激に強くなったのは、夕方、バイトを終えて駅までの道を歩いていたときだった。
傘を差していてもずぶ濡れになるような激しい豪雨。あちこちでキャーキャーと声が上がり、人々が屋根の下へと逃げ込んでいく。
わたしもとっさに目についたお店の軒下に避難した。