雨夜の星に、願いひとつ
傘を閉じて、濡れてしまった髪や服をハンカチでぬぐう。足元で跳ね上がる水しぶきから逃れるように、お店の外壁ぎりぎりまで後ずさりした。


夕方からは雨が弱まるって天気予報で言ってたのに……。
わたしは心の中で気象予報士に文句を言いながら、ぼんやりと目の前の景色を眺めた。

土砂降りのせいで白くかすんだ街並みは、ほんの数分前までとまったく別の世界に見える。

軒下でぽつんと立ち尽くす自分が、なんだかやけに頼りなく心細く感じて、知らない場所にひとりぼっちで置き去りにされた気分だった。


そのとき。クローズの看板をかけたお店の扉が、わたしのすぐ横で開いた。


「え、夢希さん?」

「柴ちゃん!」


思いがけない状況で出くわした柴ちゃんに、驚きよりも安堵が先に湧き上がった。

ドアからのぞく見なれた彼の顔、聞きなれた彼の声。遠い外国で日本人に出会ったときのような、無条件にホッとする感覚。


「雨宿りですか?」


目を丸くしたまま柴ちゃんが言った。昨日今日とバイトが休みだった彼とは、2日ぶりに顔を合わせたことになる。


「うん。柴ちゃんはどうしたの?」


わたしは彼が開けたドアのむこうをチラリと見てたずねた。
薄暗い店内はカウンター席のみで、棚に並んだお酒のボトルやグラスの様子からショットバーらしきことがわかった。
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