雨夜の星に、願いひとつ

「ここ、俺のイトコがやってる店なんです。先週からそいつが風邪で寝込んでて、店の片付けとか雑用頼まれたんですよ」

「そうなんだ」

「どうぞ。入って」


ごく当たり前のように、柴ちゃんは濡れたわたしの肩をそっと押して中へ入るよう促した。

雨はしばらく弱まりそうにないから、ここで待たせてもらうのは自然な流れ。きっと誰でもそうするはずだ。
そんな言い訳じみたことを頭で唱えながら、わたしは店内に入った。


扉を閉めると、外の激しい雨音はほとんど気にならなくなった。かわりに耳をくすぐるのはエアコンのかすかな音と、柴ちゃんが冷蔵庫から飲み物を取り出す物音。


「すげえ雨が降ってきたから外の様子を見に行ったんですけど、まさか夢希さんがいるなんて思わなかった」


嬉しそうに言いながら柴ちゃんは小さな瓶ビールを2本カウンターに置いて、その前のスツールに腰をおろした。そして隣のスツールを引き、わたしに座るよう目で促す。


ふたりきり、だ。

今さらそんな当たり前のことを実感して、体がこわばった。
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