雨夜の星に、願いひとつ
今までにも何度かふたりだけで話したことはあった。たとえばバイト中だったり、飲み会の日だったり。

だけどこんなにも、圧倒的に、明確に、言い訳できないくらいに、ふたりきりになったのは初めてだ。


柴ちゃんの真横に座るのは気が引けて、わたしは席をひとつ空けて腰をおろした。だけどそれは逆効果だったと、すぐに気づいた。

彼を異性として意識しているからこその態度、行動。

隠そうとすればするほど悪目立ちする弱点のように、わたしは彼に心を見透かされたんじゃないかと内心あせった。


急激に喉が渇いてきたわたしは、柴ちゃんがすすめてくれたビールをごくりと飲みこんだ。海外のビールにありがちな、独特のハーブのような香り。


「今週は雨、続くみたいですね」


柴ちゃんが世間話の口調で言った。わたしは緊張を隠した声で「そうだね」と答えた。

お天気の話題は当たり障りがないから助かる。とにかく沈黙を避けたくて、今朝のテレビの気象予報士が言っていたことをそのまま口にした。


「梅雨だから雨は仕方ないけど、七夕の日は晴れてほしいよね」

「あー、今週の土曜って七夕でしたっけ」

「そうだよ。なのに雨が降ったら見えないじゃん」

「天の川?」

「うん」

「夢希さんって意外とロマンチストなんだ」


柴ちゃんが半笑いの顔で言い、からかわれた形のわたしは唇をとがらせた。
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