雨夜の星に、願いひとつ
ところが、ちょうどその時期に賢二郎の仕事が忙しくなり、心身ともに大変そうだった彼にわたしの方から言ったのだ。

『落ち着くまで入籍は保留にしようよ』と。


結局それからも何だかんだと忙しく、気づけば2年近く。

保留になった婚姻届けは白紙のまま、“婚約者”という名前だけで中途半端な関係をつなぎとめている、今のわたしたち。


そんな日々の中、たまたま見つけたバイト募集の貼紙にふらりと寄ってしまったのは、持て余した時間を埋める何かが欲しかったのかもしれない――



「……このトマト、おいしいね」

「うん。甘いね」


わたしたちは今夜も、いつも通り食卓を囲む。

そこには何の波乱もなく、驚きもなければ、問題もない。

わたしたちの生活は、とても平和だ。


< 5 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop