雨夜の星に、願いひとつ
中島と名乗った男性は、わたしの姿を見つけると人の良さそうな笑顔で会釈してくれた。

賢二郎の方はトロンとした幸せそうな顔で、中島さんに支えられた体が右へ左へ揺れている。こんなに酔っぱらった姿は今まで見たこともない。

わたしはペコペコと頭を下げながら、彼らのところに駆け寄った。


「すみません! 本当にご迷惑をおかけして……っ」

「いえ、大丈夫です。賢二郎さんには普段お世話になりっぱなしですから、こうしてお役に立ててある意味嬉しいです」


恐縮するわたしに、中島さんは嬉々としてそう言った。もちろん社交辞令もあるだろうけど、たぶんそれだけじゃない、本当に嬉しそうな表情。

よく考えてみれば賢二郎の職場の人に会うのは初めてで、少し不思議な感じがした。
彼がいつもどんな顔で仕事をして、どんな仲間に囲まれているのか、わたしはまったく知らないのだ。


「賢二郎、歩ける?」


問いかけてみたものの、まともな返事は返ってこない。わたしひとりの力で賢二郎を支えて部屋まで行くのは無理があり、少し気はひけるけれど中島さんに手伝ってもらうことにした。
< 54 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop