雨夜の星に、願いひとつ
【夢希さん。昨日はすみませんでした。
あのあと無事に帰れましたか?
俺、あなたを困らせてるという自覚はちゃんとあります。
でもやっぱり自分の気持ちをごまかしたくないから。
夢希さんといるとすごく楽しいし幸せです。
趣味嗜好が似ていて驚くし、自分でも不思議なくらい、時間があっという間に感じます。
もっと会いたいし、これからも一緒にいたい。
なんにせよ今、夢希さんのことを本気で想っています】
……なんて自己中心的なんだろう、と柴ちゃんを憎らしくすら思う。
自分勝手で、まわりが見えなくて、正直であることに何の罪悪感もなくて。若さゆえに平気で捨て身になれる、愚かな恋。
だけどわたしも本当は同じなんだ。
正しいとか間違ってるとか、常識とか非常識とか、そんなものは結局なんの役にも立たず、本能だけで惹かれていたのだから――
「乗らないんですか?」
ふいに声をかけられてハッと我に返った。扉が開いたエレベーターの中から、さっきの子連れのお父さんが遠慮がちにこちらを見ていた。
「あっ、すみません、乗ります」
わたしはあわててエレベーターに乗りこみ、5階でおりた。