雨夜の星に、願いひとつ

2日後からバイトが始まった。


「相沢さーん。507号室、ドリンクお願いねー」

「はいっ」


店長に指示されたわたしは、トレイを持って階段を上る。繁華街のど真ん中にあるこのお店は平日の昼間でも忙しく、すでに階段を何往復もして足が痛い。


「おまたせしました」


男性グループの個室に入り、歌の邪魔をしないよう手早くアルコールドリンクを並べて、空いたグラスを回収する。

テーブルの奥の方に置かれた空グラスに手を伸ばしかけたとき

「おっ、新人さん?」

ひとりの客が顔をのぞきこんで、冷やかすように言った。


「バイト何時まで? いっしょに飲もうよ」

「すみません、勤務中なんで」

「終わるまで待ってるからさー。あ、今から歌う曲聴いてってよ。君へのラブソング、ね、ね」

「失礼しますっ」


廊下まで追ってきそうな勢いの客を振り切り、そそくさとドアを閉めて退散した。「ナンパ失敗~」とげらげら笑うマイク越しの声が、ドアのむこうから響いてくる。

ほっと息を吐いて、カウンターに戻ろうとしたとき。


「相沢さん」


呼ばれて振り向くと、面接の日に会った男性――柴ちゃんがいた。
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