雨夜の星に、願いひとつ

ああ、そうか。わたしは柴ちゃんに負かされたいんだ。

抗っても強引に奪われたい。

しがみついた正論の崖の淵を壊されたい。

理性も常識も身ぐるみ剥がされ、ただの女として無様に欲望を暴かれたい――


おさえていたものが一気に沸騰し、体から噴きこぼれていくのを感じた。自分自身のめちゃくちゃな欲求に頭がくらくらする。

柴ちゃんはわたしを向き直らせ、正面から抱きしめた。


「……俺のとこに来てよ。夢希さん」


頭上から落ちてくる、低くかすれた声。わたしは彼の胸もとに押しつけられたまま、わずかに首を横に振って「ダメ」と言った。言いながら、頭の中では別の声がしていた。


“もう、いいんじゃないの?”


それは他でもない、わたし自身の声。


“今さら止まれないでしょう?”


まるで、自分がまっぷたつに分裂したみたいに。


「ダメ」と連呼すればするほど、分裂は加速していく。追い打ちをかけるように柴ちゃんは、わたしの腰をぐっと抱き寄せ、耳のうしろに唇を押しあてた。その刺激に、ビクッと大げさなくらい肩が震えた。
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