雨夜の星に、願いひとつ
彼の前髪がわたしのおでこをくすぐり、鼻先が触れた。息づかいがどちらのものか判別できないほど混ざり合う。

唇に体温が伝わるのを、わたしは待っていた。


だけど。
口づけが降りてくることは、なかった。


「………」


彼の顔が離れたのが気配でわかり、わたしは目を開けた。

視界がぐちゃぐちゃに滲んでいる。頬もぐちゃぐちゃに濡れている。
それが雨のせいじゃないことは、自分の喉から漏れる嗚咽でわかった。

だけど泣く理由がすぐには自覚できず呆然と涙を流すわたしを、柴ちゃんは力のない表情でただ見つめていた。

そして彼は少し自嘲的な色を瞳に浮かべ、怖いくらい静かな声で尋ねた。


「泣いてんのは、俺のせい?」

「ちが……」


声がうまく出せなくて、首を何度も横に振る。

ちがうんだ。柴ちゃんのせいじゃない。
あなたを求めたのは、わたし。あなたを受け入れたいと願ったのは、まぎれもない本心。

だけど、どうしても。どうしても――


「婚約者を裏切れない、か」

「……っ」


残酷な答えを柴ちゃんの口から言わせたことで、涙がまたぼろぼろと溢れた。

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