雨夜の星に、願いひとつ
「大丈夫ですか? あの部屋の人たち、酔ってたから絡まれたんじゃないです?」

「いえ、何もないです」


事務的な笑顔でそう答えてから廊下を歩き始めると、タタッと軽い小走りの音が背後から聞こえ、隣に柴ちゃんが並んだ。


「何かあったら遠慮なく言ってください」

歩幅をわたしに合わせ、ごく自然に並んで歩く柴ちゃん。

「このバイト、女の子は怖い思いすることもありますから」

「はあ」


女の子、ですか……。もうそんな年齢でもないんですけどね。

でもなんとなく、柴ちゃんは相手が30代でも40代でも女の子って呼びそうだ。よく知らないけど、そんなタイプな気がする。

カウンターに戻ってしばらく時間が経つと、徐々に忙しさが落ち着いてきた。
内線のコールが鳴り、店長が受話器を取った。


「はい。生ビールふたつと、ジントニックふたつですね。かしこまりました」


電話を切った店長がわたしに「相沢さん、507号室にドリンクお願いね」と声をかける。


「はい。……あ」

覚えのある部屋番号に、思わず動きが止まった。
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