雨夜の星に、願いひとつ
半ば放心しながら、なぜ、という言葉を頭の中でくり返す。なぜ、わたしは飛びこめなかったのか。
理性や常識からじゃない。罪悪感や道徳心からでもない。
自分自身の理解すら及ばないところで、わたしが選んだのは賢二郎だった。
脳裏に浮かんでくる数々の情景。見慣れきった寝顔、たいした会話もない食卓、ほとんど同じ身長の賢二郎との、顔を上げなくてもできるキス。
そのありふれた日常を、手のひらの中の小さな小さなものたちを、わたしは捨てることができなかった。
「ごめん…なさい……」
両目からとめどなく溢れる涙が、雨粒といっしょに落ちていく。
柴ちゃんは痛みをこらえるように眉間に力を入れて、しばらく固く目をつむっていた。
それから、何度か大きく息を吐きだすと
「……やっぱりダメだったか……」
と苦しそうに笑って、その場にしゃがみこんだ。
さっきまでふたりを支配していた熱は、もう、何ひとつ溶かす力もない。川のよどみで水流から取り残された浮遊物のように、行き場もなく漂うだけ。
うつむく柴ちゃんの髪を、雨が筋になって伝っていく。濡れたシャツが彼の体に張りつき、くっきり浮かんだ肩のラインが無性に細く見えた。
理性や常識からじゃない。罪悪感や道徳心からでもない。
自分自身の理解すら及ばないところで、わたしが選んだのは賢二郎だった。
脳裏に浮かんでくる数々の情景。見慣れきった寝顔、たいした会話もない食卓、ほとんど同じ身長の賢二郎との、顔を上げなくてもできるキス。
そのありふれた日常を、手のひらの中の小さな小さなものたちを、わたしは捨てることができなかった。
「ごめん…なさい……」
両目からとめどなく溢れる涙が、雨粒といっしょに落ちていく。
柴ちゃんは痛みをこらえるように眉間に力を入れて、しばらく固く目をつむっていた。
それから、何度か大きく息を吐きだすと
「……やっぱりダメだったか……」
と苦しそうに笑って、その場にしゃがみこんだ。
さっきまでふたりを支配していた熱は、もう、何ひとつ溶かす力もない。川のよどみで水流から取り残された浮遊物のように、行き場もなく漂うだけ。
うつむく柴ちゃんの髪を、雨が筋になって伝っていく。濡れたシャツが彼の体に張りつき、くっきり浮かんだ肩のラインが無性に細く見えた。