雨夜の星に、願いひとつ
どれくらい沈黙が続いただろう。突然、すぐそばのドアが開き甲高い子どもの声がした。


「うわあ、すっごい雨降ってる!」


幼稚園くらいの男の子とお母さんが、駅ビルの裏口から出てきたところだった。

お母さんの方は、ずぶ濡れのわたしと柴ちゃんに一瞬だけ驚いた顔をしたものの、すぐに目をそらして縞模様の傘をひろげた。


「天の川、見えなくて残念だったね」

「あのねママ、今日、幼稚園で短冊に願いごと書いたんだよ。でも雨だから叶わないかなあ」

「うーん。彦星さまと織姫さまが、特別に叶えてくれるんじゃないかな」

「やったあ」


男の子は気を良くしたのか、七夕の歌を口ずさみながら、子ども用の小さな傘を上下に振って歩き始めた。

なじみのある歌詞が雨の夜空に響く。少し音程のずれた歌声が妙に可笑しくて、張りつめていた空気が緩んだ。

わたしはため息をつくように小さく笑った。
うずくまったままの彼も、濡れた髪を力なくかき上げながら「ははっ」と笑った。


「夢希さん」


歌声が遠くに消えたころ。柴ちゃんがぽつりと、つぶやいた。
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