雨夜の星に、願いひとつ
わたしは彼に背を向けた。降りしきる雨の中、一歩二歩と歩き出したとき
「最後にこれだけ聞かせて」
後ろから彼の低い声がして、足を止めた。
「もし、俺と出会うのがもっと早ければ、どっちを選んでた?」
「………」
道路の水たまりが雨に打たれて、ゆらゆらと水面が揺れている。いくつもの波紋が広がっては消えるのを、ぼんやりと見つめた。
「……それは、答えなくちゃいけない?」
できるだけ淡々と、できるだけ感情を隠して、聞き返す。
雨音にかき消されそうな声で、ううん、と彼が言った。
「答えなくて、いいよ」
確かなものなど何ひとつなく始まったふたりだったから。
確かなものなど何ひとつ残さずに、終わらせよう。
歩き始めたわたしに降り注ぐ雨は流星群のようだった。
彼と最後に見た夜空。もっと星が降ればいい。もっと流れていけばいい。
そうしていつか雨が止んだとき。きっと本物の星が輝くはずだと、今は信じたい。
たとえ小さな光でも、その星の在るべき場所で。