雨夜の星に、願いひとつ
――どくん、と心臓が一度だけ大きく音をたてた。
「今年の夕涼み会は七夕も兼ねてるので、保護者の方にも短冊を書いてきてもらうことになったんです。よかったらぜひ」
先生がニコニコしながら水色の細長い紙を差し出してくる。折り紙をカットしたのだろう、手作り感のあふれる短冊。
わたしは固い笑みを浮かべながら、おもむろにそれを受け取った。
願いは、当然のように決まっている。家族が元気でこれからも平穏に暮らしていけること。
「のんちゃんね、七夕がすごく楽しみらしくて。お絵描きのときも天の川の絵ばかり描いてるんですよ」
「そう……ですか」
「でも雨が降ったら彦星さまと織姫さまが会えないから、どうしようってすごく心配してて。かわいいですよね」
「………」
体の奥底でひっそりと波紋が広がっていく。
音も色もなく、あいまいで、けれど確かにそこにある記憶。