初恋の君と、最後の恋を。
呼び出しを受けているため職員室に向かうという相馬先輩と別れて、階段を上る。
「相馬先輩、また何かやってしまったのですか?」
「定期試験の結果が散々だっらしいよ」
「あ…私も人ごとではないんですけど」
「だからって教科書を破いたりしないよね?」
昔の話ーー私と黒瀬先輩だけが知るエピソードにニヤリと笑い合う。
「分からないです。そしたらまた貸してくださいね」
「また地理の教科書?」
破いた地理の教科書の代わりとして譲り受けた黒瀬先輩のそれは授業のメモが書き込みしてあり、ブルーのマーカーが所々引かれていた。
特別な教科書を、学年が代わり必要がなくなっても綺麗に保管している。いつか返さなければいけないのかな?
「地理はマシになりましたよ」
「それは良かった。じゃ、また」
先に3年の教室に達着する。
2年の教室はもう1階上だ。
「黒瀬先輩、」
階段を上り終えた先輩を呼び止める。
いつもの決まり文句をあなたに。
「好きです」
少し間を空けて返ってきた「ありがとう」を、あと何回聞けるのだろう。