初恋の君と、最後の恋を。
蜂蜜レモンティーの甘酸っぱい香りと、スローテンポの洋楽が流れる店内。
お洒落なカフェから路地裏にひっそりと構える老舗のカフェまで、私たちは美味しいコーヒーを、時には苦すぎるその味を一緒に味わってきた。
お互いの悩みと向き合い、多くの時間を共有してきた。
苦しい。
苦しくて苦しくて、どうしようもない。
「温かいうちに飲まないと」
優しい手で頭を撫でられる。
「仁くん…」
「一口ちょうだい」
このまま流されてみてはどうだろうか。
悪魔のささやきに弱い心が乱される。
「仁くん、私…」
マグカップを持つ角張った手に、自分のそれを重ねる。
「いいよ、春じゃなくて。2年後でも3年でも、それこそ5年後でも構わない。菜子が僕の元へ帰ってくれるのなら、それでいいから」
泣く資格なんてない。
泣くな、泣いちゃダメだ。
「菜子だけをずっと、愛してる」
目尻にシワを寄せて優しく笑う仁くんは、笑顔の下にたくさんの哀しみを隠してきた。
私は絶対にその哀しみを見落とさず、寄り添うと決めたはずだった。
それなのに彼に今、無理矢理に笑顔を作らせている私はーー最低の人間だ。