初恋の君と、最後の恋を。
ごめんなさい。
仁くん、ごめんね。
「ーー私は、一度も、仁くんのことを異性として見たことはないの。愛してもいないよ」
こんな女、さっさと忘れてもっと素敵な女性の手を取って。
「今まで思わせぶりな態度をとってごめんなさい。こんな形で終わらせることになって、ごめんなさい」
彼の顔から笑みが消えた。
逸らさず、向き合う。
最初から婚約はできないと、周りを説得すれば良かった。誰も傷付けずに済んだのに。
「それでも、君は僕の婚約者だ。君の愛など、君の心など、そんなものはいらない」
その声は震えていた。
「僕を愛さなくて良いから、ずっと傍にいて」
「そんなの意味ないよ…」
「例え意味がなくても、君が傍に在ればそれで良いってこと。まぁ菜子には僕の気持ちなんて一生、分からないね」
自嘲気味に笑い、仁くんはテーブルの2つのマグカップを腕で払い落とした。
大きな音がする。
床に落ちて粉々になったマグカップと、垂れ流れる液体を横目に彼は吐き捨てた。
「君の心が壊れようと、僕は君を求め続ける」
バッグを掴み、店を出て行く彼を止めることはできない。
それは私が贈ったトートバッグだった。