初恋の君と、最後の恋を。
身体を揺すられる。
声をかけられている気もするが、眠い。
重い瞼を開けられない。
「菜子!起きなさい!」
「え?」
脳に侵入してきた母の大声に飛び起きる。
布団は剥がされ、枕も定位置になかった。
「仁くんが倒れたって!お父さんから連絡があったの!」
「仁くんが…」
覚醒し始めた頭が母の言葉を理解した。
「仁くんが!?大丈夫なの?」
「今はまだ意識が戻らないって…お父さん言ってたのよ、最近の仁くんは元気が無くて食事もきちんと採ってなかったって」
「……」
それって、私のせい?
私が勝手に婚約を解消しようとしたから?
「菜子、大変な時だからこそしっかりするのよ」
「…私、行く!仁くんのところへ」
「ええ、それがいいわ」
ベッドから飛び起きる。
午前10時。
母が開けたカーテンからは暖かい太陽の光が射し込むが、私には眩しすぎた。