初恋の君と、最後の恋を。
仁くんの会社の人が空港まで迎えに来てくれて、病院まで迷わずに済んだ。
案内された病院に駆け込む。
そして開いた扉から見えた、仁くんの姿に泣きそうになった。
「仁くん…」
「菜子!?」
ベッドに横たわる彼は眠たそうに目を細めていたけれど、私を見て飛び起きた。
ああ、良かった。
意識が戻ったんだ。
「よく来たね」
窓際に立っていた父が傍に来て座るように丸椅子を出してくれた。
「そっか、わざわざ来てくれたんだね。びっくりした…」
目元にくっきりとクマが浮かび、頰は影ができるくらいこけていた。
「心配かけてごめんね?車とぶつかりそうになって、ちょっとよろけただけなんだよ。みんな大袈裟だよな」
「良かった…」
全身の力が抜けていく。
ベッドに近寄り、仁くんの手を握ると、父と会社の方は席を外してくれた。
静かに扉が閉まった音を聞き、遠慮がちに問う。
「私のせい?」
「なんで?そんなわけないよ」
「私が婚約解消なんて言い出したからーー」
「菜子のせいじゃないよ」
元気のない掠れた声。
「でもこうしていると安心する」
繋がれた手に力を込められて、それに応えるように私もギュッと握り返した。
大切な幼馴染の弱った姿など、もう見たくないと心から思った。